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フェルラ酸の効果 フェルラ酸はベータアミロイドの記憶や学習力を低下させる作用を抑制して、 アルツハイマー病や健忘を予防し、改善する フェルラ酸がベータアミロイドによる記憶や学習力の低下を抑制する 2001年に英国の権威ある薬学会雑誌に、韓国にある翰林大学生薬研究所のYanらの研究成果が報告されました(このページ下部《参考文献1》を参照ください)。 この研究は、ネズミの脳内にベータアミロイドを注入すると記憶や学習力が低下しますが、フェルラ酸を事前に与えたネズミは、与えたフェルラ酸の量が多いほど、また与えた期間が長いほど、ベータアミロイドによる記憶や学習力の低下を抑制できる、という内容です。(下図1,2参照)
ネズミの実験がヒトでも有効か? ネズミとヒトでは知能が違いすぎて、ネズミの記憶や学習力を試験しても、ヒトでは参考にならないのでは? と思う人が多いと思います。 ネズミやラットなどのげっ歯類が、よく実験に使われる理由には、以下の3つがあります。 第一の理由は、ヒトを実験台にするのが難しいことです。 まして、生きたヒトの脳内にベータアミロイドを注入することはできません。 第二の理由は、ヒトと同じ哺乳類の仲間で、ネズミやラットは大量の実験体が容易に入手しやすいからです。 体重に対する大脳の重さを表す指標では、ヒトはネズミの15倍も大きいのですが、哺乳類以上が高度に持っている記憶や学習機能はネズミもヒトも同じであると考えられるため、生きたネズミが試験に使われることが多いわけです。 第三の理由は、生体から取り出した細胞がよく実験に使われますが、取り出した細胞は必ずしも生体内の細胞の挙動と同じではありません。 特に脳細胞の場合は、取り出した細胞と脳内の細胞とは、まったく異なる挙動を示すことがあります。 そのため細胞での実験はあくまでも、生きた動物での実験や、ほぼ間違いないと推定される仮説を裏付けるものとして活用されます。 ベータアミロイドはアルツハイマー病の原因物質か? 40個前後のアミノ酸で構成される小さなタンパク質であるベータアミロイドは、1 0年以上も前からアルツハイマー病の原因物質といわれてきました。 その理由は、 1. アルツハイマー病患者の脳内に数多く見られる老人斑と呼ばれる小さな斑点が主にベータアミロイドによって構成されていること 2. アルツハイマー病患者では、ベータアミロイドの脳内濃度が異常に高いこと 3. 家族性アルツハイマー病といわれる50歳前から発病することがある遺伝性アルツハイマー病患者の遺伝子には、ベータアミロイドがたくさん作られる変異が発見されていること などによります。《参考文献2》 ベータアミロイドは果たして悪ものか? ベータアミロイドは脳内に常に存在しており、どのように作られるかについては、ほぼ解明されています。 それによるとベータアミロイドは誤って作られるのではく、正規の方法で作られています。 正規の方法で作られる物質が、何の役割も果たしていないとは考えられません。 事実、ベータアミロイドを取り除いた培養神経細胞は、長く生きていられないという報告もあります。 ベータアミロイド濃度は、高齢になると増えてくる しかし高齢になると、動物でもヒトでも、脳内のベータアミロイドが増えてきます。 この理由は、ベータアミロイドを分解するネプリライシンという酵素が、年をとると活性が低下するからだと報告されています《参考文献3》。 ベータアミロイドが神経伝達に悪影響を与える実験は数多く報告されており、高齢になって増えてくるベータアミロイドが健忘の原因になっていることは充分考えられることです。 しかし、ベータアミロイドが多くてもアルツハイマー病でない人はたくさんおり、ベータアミロイドが多くなったからアルツハイマー病になるとは限りません。 一方、アルツハイマー病の脳内では例外なくベータアミロイドの濃度が異常に高くなっています。 つまりベータアミロイドはアルツハイマー病の必要条件ですが、十分条件ではないということです。 高齢者の脳内にある高濃度のベータアミロイドは、記憶や学習に影響する Yanらは、ネズミの脳を傷つけないように、脳室といわれる大脳の中にある空間に、410ピコモルという超微量のベータアミロイドを注入しました。 410ピコモルというと、1,000トンの水にベータアミロイドを約2グラム溶かした濃度で、たとえれば大きなプールにスティック砂糖を1つ入れたぐらいです。 こんなに薄い濃度のベータアミロイドでも、ネズミの記憶や学習力は著しく低下します。 ヒトの脳内にはベータアミロイドが常にあって、若い頃は数10ピコモルに収まる範囲の濃度ですが、40歳を過ぎる頃からその濃度が増えだし、60歳を過ぎると人によっては1,000ピコモルを超えます。《参考文献4》(下図3参照) ![]() Yanらがネズミの脳内に注入した410ピコモルという濃度のベータアミロイドは、高齢者の脳内に実際にありうる濃度なのです。 Yanらは予備試験で、205ピコモルと410ピコモルのベータアミロイドをネズミの脳内に注入し、注入した2日後と8日後の記憶や学習力を観察していますが、記憶や学習力の低下はベータアミロイドの濃度が高いほど大きくなり、8日経ってもその影響は残っていました。 Yanらが実験に使ったベータアミロイドは、42個のアミノ酸から構成されるものでしたが、そのコントロール(標準)に使ったのは、ベータアミロイドのアミノ酸配列を逆にしたタンパク質で、このタンパク質はネズミの記憶や学習力にはまったく影響しませんでした《参考文献1》。 このことはベータアミロイドの記憶や学習力を低下させる作用は、そのタンパク質構造に潜んでいることを示しています。 ネズミに与えたフェルラ酸について Yanらの研究で、フェルラ酸はネズミが自由に飲む飼育水に溶かして与えられましたが、その濃度は0.002~0.006%でした。 この濃度を、ネズミが平均して飲んだ飲料水とネズミの平均体重から、60Kg体重のヒトに換算すると、毎日280mg~1,140mgのフェルラ酸を摂取したことになります。 米や小麦のヌカの中には、ヒトでの吸収性がよいフェルラ酸が、1Kgにつき米では約100mg、麦では300~400mgが含まれています。 これらのことからYanらがネズミに与えたフェルラ酸の量は、ヒトが日常食べるレベルの量です。 フェルラ酸はどんな植物にも含まれている フェルラ酸は植物の細胞壁を構成する成分の1つであるため、どんな植物にも含まれています。生物が地球上に生まれたばかりの32億年ぐらい前、太陽から降り注ぐ光を利用して、大気中に大量にあった炭酸ガスと地球表面に大量にあった水から、炭水化物を作る光合成機能を獲得した生物が植物の始まりでした。 そのあと海から陸にあがった植物は、1ヶ所に固定してゆっくりと光合成をする方法をとり、固定しながら外敵から自分を守る方法を獲得しました。 植物を侵すものには、いろいろあります。 まずは太陽光とともに地球に降り注ぐ強い紫外線です。 また嵐や気候の変化も大きな脅威です。 なかでも植物がたえまなくさらされた脅威は、動物に食べられることでした。 植物は自分を守るため、細胞壁という細胞を取り巻く強固な殻を共通して持つようになり、また進化のなかで細胞壁にいろいろな機能を付与してきました。 まずは細胞壁の物理的な強固性と柔軟性です。 この相容れない両面性を備えることによって、嵐などの自然の暴威から身を守ることができたのです。 生まれたばかりの細胞の細胞壁はセルロース繊維が主な構成成分で、ストッキングのように伸びることができ、生長して大きくなることができます。 細胞が大きくなってくると細胞壁のセルロース繊維が強くなってきて細胞の生長も止まりますが、同時にフェルラ酸、クマリン酸、カフェイン酸といったフェノール酸類が細胞壁の下に分泌され、それらのフェノール酸からリグニンが合成されて、セルロース繊維の隙間を埋めていきます。 さらに細胞壁にはアラビノースなどの糖類とフェルラ酸が結合した物質が分泌されるようになります。 この分泌されたアラビノースなどの糖類は、セルロースのブドウ糖と結合します。 一方のフェルラ酸はリグニンのフェルラ酸と結合し、2つのフェルラ酸(フェルラ酸ダイマー)を橋渡しにして、セルロースとリグニンがリンクするようになります。 リグニンには防水性があり、また紫外線も遮断でき、セルロースとリグニンがフェルラ酸ダイマーを介してリンクすることによって硬度も付与され、防御性と剛性が高く、かつ柔軟性のある細胞壁に変質していくのです。 どんな植物にもフェルラ酸が含まれる理由は、細胞壁のセルロースとリグニンをリンクしているのがフェルラ酸だからですが、その役割ゆえ成長した細胞であっても細胞壁に含まれるフェルラ酸は、ほぼ一定量で、しかも細胞全体の100万分の1ぐらいの微量です。 動物は植物のフェルラ酸を利用して植物の毒を解毒してきた 植物は動物を利用することもありますが、動物に食べられないように、毒物や動物が嫌がる物質(忌避物質)を細胞外に分泌するのが通常です。 現代のわれわれが野菜を豊富に食べられるのは、自然にあった数少ない食用植物を改良し栽培してきたからで、本来は、ヒトが食べることができる野草は限られています。 植物は、微生物や動物に食べられないように、新しい毒物を分泌できるようになったものが生き残り繁栄するようになりました。 一方動物の方は、 いつ毒物と遭遇するか分かりませんし、どんな毒物かも分かりませんので、どんな毒物に遭遇しても対処できるシステムを獲得するようになりました。 動物が獲得したシステムとは、外から体内に進入した物質を、できるだけ早く分解する方法でした。 物質を分解する主役は、ペルオキシダーゼやチトクロームp450などの酸化分解酵素です。 通常の酵素には1つの遺伝子しかありませんが、動物は、毒物や異物をすばやく分解するためにペルオキシダーゼやチトクロームp450などの酵素の遺伝子をたくさん持つようになりました。 人によっては、チトクロームp450の遺伝子を100個以上持っていることが知られていますが、その数は人によって違いがあるため、アルコールを分解する能力に個体差が現れ、お酒に強い人と弱い人がいることになります。 またペルオキシダーゼは、フェルラ酸を補助剤として使い、酵素の力を強めていることが報告されています。《参考文献5》。 進化のなかで、植物は毒物や忌避物質を新たに作り出し、それに対し動物は、植物のフェルラ酸を利用してペルオキシダーゼの酵素活性を高め、植物が新たに作り出した毒物をすばやく分解・解毒できたものが生き残れたのでしょう。 まるで植物と動物の知恵比べですね! 《参考文献》 1.Yan JJ, Cho JY, Kim HS, Kim KL, Jung JS, Huh SO, Suh HW, Kim YH and Song DK [Protection against β-amyloid peptide toxicity in vivo with long-term administration of ferulic acid] British J Pharmacol. (2001) 133: 89-96 2. Hardy J and Selkoe JD [The amyloid hypothesis of Alzheimer's Disease: Progress and problems on the road to therapeutics] Science (2002) 297: 353-6 3.Iwata N, Tsubuki S, Takaki Y, Shirotani K, Lu B, Gerard NP, Gerard C, Hama E, Lee H-J and Saido TC [Metabolic regulation of brain Abeta by neprilysin] Science (2001) 292: 1550-2 4. Fukumoto H, Rosene DL, Moss MB, Raju S, Hyman BT and Irizarry MC [ß-Secretase Activity Increases with Aging in Human, Monkey, and Mouse Brain] American Journal of Pathology. (2004) 164: 719-25 5.Henriksen A, Smith TA and Gajhede M [The structures o the horseradish peroxidase c-ferulic acid complex and the ternary complex with cyanide suggest how peroxidases oxidize small phenolic substrates] J Biol Chem (1999) 274: 35005-11 |
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